Rion Hiragi/Resercher/Storyteller

〜 No.153 音楽が脳と体に与える影響〜

皆さんは、音楽を聴いて

その美しさに思わず泣いた事はありませんか?

 

泣いた事はなくても、音楽を聴きながら

無意識にリズムを刻んでいたことは

誰にでもあると思います。

 

実は、音楽には私たちが想像する以上に

すごい力が秘められているのです。

 

今日は、その効能をご紹介したいと思います。

 

音楽の効能は、1990年代からメディアで宣伝された

「モーツァルトを胎児や子供に聴かせると頭が良くなる」

というのが有名でしょうか。

 

でも、ちょっとこれは間違っています。

実際この実験は大学生を対象に行っていて

110分モーツァルトを聴かせると、空間推論テストの

IQスコアが上がったというものです。

(ただし、この効果は10分程度しか続かないのだとか)

 

とは言え

モーツァルトの楽曲に素晴らしい効果があるのは事実です。

 

耳鼻咽喉科の医師で音楽療法も研究していた

アルフレッド・トマティスという人がいます。

彼は当初ビバルディ・パガニーニ・ハイドンらの曲も使っていましたが

結局最後に残ったのはモーツァルトの曲でした。

 

モーツァルトの曲は神経系の経路を整え

脳に刺激を与えてその配線を促し

言語の習得に必要なリズム・流れ・動きを付与します。

 

特にバイオリンは高周波数帯域の音に富んでいるので

誰にでも効き目があり

活力を充填し、リラックス効果も得られます。

 

音楽は脳の「報酬中枢」に働きかけ

それによってドーパミン(快楽物質)の生産が増えて

快感情やモチベーションの向上にもつながります。

つまり、曲を聴くと明るい気分になれるのです。

 

気分的な問題だけでなく、身体的にも良い影響があります。

 

脳が音楽による刺激を受けると

ニューロン(神経細胞)はそれと同期しながら発火する事が

脳の画像研究によって明らかになっています。

 

これを「引き込み現象」と呼びます。

 

最初バラバラの動きをしていた二つの振り子の振動が

やがて同期したり

1つの音叉(おんさ・叩くと音が出る器具)を、

もう1つの音叉の近くで叩くと、お互いが接触していなくとも

もう1つの音叉も振動して音が出る、という現象もコレです。

 

ジャズミュージシャン同士がセッションすると

それぞれの脳波が引き込まれて行きます。

すると、あの素晴らしいグルーブ感(ノリノリ感)

が生み出されるのです。

 

いわば

「脳内を支配するニューロンの発火速度が同期し始める」

状態になります。

 

脳障害の多くは、脳がリズムを失い「リズム障害的」な状態で

発火するために起こるとされていて

音楽療法やサウンドセラピーは

こういった症状に効果を発揮するのです。

 

ちょっと専門的な解説を付け加えると

音は脳の上の部分(高次認知機能を司る部分)だけでなく

「脳幹」という人の生命を維持する部分にも刺激を与えます。

 

音楽療法は、重度の外傷性脳損傷回復を早めたり

ADHDの子が抱える注意力の改善にも

役立つという研究結果が出ています。

 

ここで、音楽療法を使って

劇的な治療効果を上げた有名人を紹介しましょう。

 

グラミー賞にもノミネートされた事がある

メロディ・ガルドーという歌手がいます。

 

メロディはフィラデルフィア出身の32才。

囁くような叙情ある声を持つ

ジャズヴォーカリスト兼ソングライターです。

 

彼女は19才の時、信号無視をしたジーブに跳ねられ

複雑骨折・脳の機能障害等の瀕死の重傷を負いました。

 

彼女はずっとピアノをやってて

16の時には地元のバーで歌う力もあったのですが

事故のせいで音と光に過敏になり

今までの音楽が聴けなくなってしまったのです。

 

でも彼女にとって幸いだったのは

担当医が音楽療法を熱心に行った事でした。

 

医師の勧めでハミングを始め

次第に自分の歌を録音するようになります。

そしてリハビリの一つとして自分で曲を書くようになり

その数曲が彼女の最初のインディーズアルバムになりました。

 

そしてそれが大手レコード会社の目にとまり

事故から六年後に出したアルバムは

各国でゴールドやプラチナディスクに輝いたのです。

 

現在メロディは、"シャトー・ガルドー音楽療法プログラム"

を立ち上げ、音楽療法の活動にも携わっています。

 

奇跡的に彼女をカムバックさせたのは

『音の力』に依る所が大きかったんですね。

 

1960年代、アンカルカ修道院に就任した修道院長は

「修道僧が16〜8時間歌っても何の利益もないから」といって

グレゴリオ聖歌を歌うのを禁止してしまいました。

 

その結果、修道僧達はノイローゼになってしまったとか。

実は、効果的な詠唱には高音域の「倍音」が含まれていて

活力を与えたり心を鎮める効果があるのですが

それを奪ってしまったんですね。

 

修道僧は再び詠唱を開始すると

たちまち元気になったそうです。

 

皆さんも、音を上手にご自身の生活の中に

取り入れてみて下さいね。

 

 

参照:『脳はいかに治療をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』

   ノーマン・ドイジ 紀伊国屋書店